非上場会社の事業承継において、オーナー家または、経営に関与していない方等が保有している株式が、誰に、どのように引き継がれるか、ということは、会社の経営上、重要な課題となります。
当資料では、それらの課題の主なものと、その対応策について、会社法を活用した方策の一例をご説明いたします。
【概要】
事業の円滑な運営を確保する等の観点から、「株式をオーナー家に集約したい」等の場合に、少数株主の保有する株式を個々株主と交渉・合意し、会社が買取ることは可能(その場合には、その他の全ての株主に対しても、同様の条件での売却の意向があるかにつき、確認することが必要〈会社法160条2項〉)です。
しかし、そういった間に、当該株主らに相続が発生すると、株式がその株主の相続人へ承継されることになってしまいます。このような場合への対応策の1つとして「相続人等に対する株式の売渡請求」を定款で定める方法があります。
【定款例】
第●条 当会社は、相続その他一般承継により当会社の株式を取得した者に対し、当該株式を当会社に売り渡すことを請求することができる。ただし、相続人に対する売渡しの請求は、その相続の対象となる株式が発行済株式総数の●%未満の場合にのみ請求できるものとする。


①定款で、このような定めをおくために、株主総会決議は必要か?
→株主総会の特別決議(会社法309条2項)が必要となります。
②「相続その他の一般承継」とは、どういった場合か?
→「相続」「(会社の)合併」「(会社の)分割」です。例えば、A社の株式を保有していたX社が、Y社に吸収合併された場合には、一般承継によりY社がA社の株主となる、ということです。
※「一般承継」以外の、譲渡や贈与等の場合を「特定承継」と言います。
③「遺産分割」や「相続させる趣旨の遺言」は一般承継だが、「遺贈の遺言」は特定承継と聞く。そうであれば、このような定款の定めでは、特定承継には対応できないのでは?
→会社の株式が譲渡制限株式ならば、特定承継に対し、譲渡不承認とし、会社が買取ることも可能と考えられます(会社法140条)。


④オーナー家に相続が発生した場合に、この定めがあるために、逆にオーナー家の株式が会社に買取られてしまうことにならないか?
(売渡請求の対象となった株式を有する株主は、当該売渡請求の決定を行う株主総会決議で議決権を行使不可<会社法175条>)
→代表取締役は会社を代表します。売渡請求を行うのは会社ですから、代表取締役がオーナー家であれば、通常、そのような問題は発生しないと思われます。仮に、代表取締役が2名いて、1人がそのような行為を行った場合に、例えば取締役会でその者の代表取締役を剥奪して、残った代表取締役が、売渡請求を撤回することも可能です(会社法176条3項)。
※定款例のように、売渡請求の対象となる株式を限定しておくことも1つの方法です。
⑤当該株式をいくらで買取るか、売買価格は協議で決めると定められているとのことだが、協議が整わない場合は?
→売渡請求の日から20日以内に、裁判所に価格決定申立をすることができます(会社法177条2項)が、鑑定費用等のコストも生じるため、従前から、十分な財源準備を行っておき、妥当な額で、協議で決着したいところです。または、そもそも、生前に合意買取を行うか、生前に全株主の同意を得て当該株主の保有する株式を「取得条項付種類株式」へ内容変更し、一定の事由、例えば当該株主の死亡発生時に、会社が、予め定めた価額で強制買取するといった方法もあります。
【会社法】
(相続人等に対する売渡しの請求に関する定款の定め)
第174条 株式会社は、相続その他の一般承継により当該株式会社の株式(譲渡制限株式に限る。)を取得した者に対し、当該株式を当該株式会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができる。
第175条(売渡しの請求の決定)
株式会社は、前条の規定による定款の定めがある場合において、次条第一項の規定による請求をしようとするときは、その都度、株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。
一 次条第一項の規定による請求をする株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)
二 前号の株式を有する者の氏名又は名称
2 前項第二号の者は、同項の株主総会において議決権を行使することができない。ただし、同号の者以外の株主の全部が当該株主総会において議決権を行使することができない場合は、この限りでない。
【概要】
事業の円滑な運営を確保する等の観点から、「株式をオーナー家に集約したい」等の場合に、株式そのものを集約するためには、相応のコストが必要となります。他方、株主を全く変えず、それらの株主が保有している「株式の種類」を変えることにより、株主総会の議決権等を実質的に集約する方法があります。
【定款例 ➊】「配当優先無議決権種類株式」の活用 (少数株主が当株式を保有するイメージ)
第●条 甲種類株式を有する株主は、株主総会において議決権を有しない。
2 甲種類株式は、剰余金の配当について普通株式に優先し、当会社が剰余金を配当する場合は、甲種類株式1株に対して普通株式1株に対する配当額の1.2倍の金銭(1株につき1円に達しない端数が生ずる場合は、その端数は切り捨て)を配当する(当会社が、会社法の規定により剰余金の配当ができない場合には、その限りではない)。
【定款例 ➋】「取得条項付拒否権付種類株式」の活用 (オーナー経営者が当株式を保有するイメージ)
第●条 当会社が株主総会、取締役会および清算人会で決議するすべての議案については、乙種類株式を保有する株主の種類株主総会の決議を経ることを必要とする。
2 当会社は、乙種類株式を保有する株主に次に定める事由が生じた場合には、次に定める取得の条件で、当会社が金銭を交付するのと引き換えに、当該株主より当該株主が保有する乙種類株式のすべてを取得することができる。
ア.取得事由
(ア) 自然人である株主が死亡した、または事理を弁識する能力を欠く常況にあるとの医師の診断がなされたとき
(イ) 株主が破産又は民事再生の申立をしたとき
イ.取得と引換えに株主に交付する金銭の額 ― 取得事由発生時における税法上の時価
【2.Q&A】
①定款で、これらのような定めをおくために、株主総会決議は必要か?
→株主総会の特別決議(会社法309条2項)が必要となります。
②普通株式を有する株主と、こういった種類株式を有する株主とがともに存在することとなると思うが、そもそも、後者の株主は、もともと普通株式を保有していたはずだが、どのような手続きで普通株式ではなく、種類株式を保有することになるのか?
→当該株主が、会社との合意により、「保有する普通株式を、種類株式へ内容変更する」ということになります。そのような内容変更をする株主が、一部の株主である場合も、全株主の同意が必要となります。
③種類株式への内容変更を、一部の株主が反対する場合はどうなるか?
→種類株式への内容変更は実行しないこととなります。
※一方、会社は「株式の併合」等の方法により、少数株主をスクィーズアウトすることも可能です。しかし、極力、事情を説明し、同意を得る努力を行うことが望ましいと思われます。
④これらの株式について、相続税法上の評価はどうなるか?
→平成19年2月26日付の国税庁課税部長回答「相続等により取得した種類株式の評価について」にて、評価方法が示されています。「配当優先無議決権種類株式」については、原則的評価方式のうち、「類似業種比準方式」で計算する際には、「1株当たりの配当金額」に関して「配当優先」を加味して計算することとしています。しかし、それ以外については、「無議決権株式」については、原則として、議決権の有無を考慮せずに評価し、「拒否権付株式」については、拒否権を考慮せずに評価する、としています。
【3.属人的みなし種類株式について】
特定の株主個人に対し、予め定めた状況下にある限りにおいて、多くの議決権を持たせたい等の場合に、保有する株式の数や種類を変えることなく、それを実現する方法があります。
※株主総会の特殊決議(会社法309条4項)が必要となります。
定款例 ➊ Aが成年被後見人とならない限り、Aの議決権を増やす方策として
第●条 当会社の株主の中で株主総会において、株主Aが保有する株式については、株主Aが事理を弁識する能力を有する限りにおいては、株主Aが保有する株式1株につき議決権を20個とする。
定款例 ➋ 少数の株式を有する親族外のBが、代表取締役である間は、Bの議決権を増やす方策として
第●条 当会社の株主の中で株主総会において、株主Bが保有する株式については、株主Bが当会社の代表取締役である限りにおいては、株主Bが保有する株式1株につき議決権を20個とする。
※当資料に記載の内容は2018年1月現在の関係法令等に基づき作成しております。今後取扱等が変わる場合もございますので、記載の内容等は将来にわたって保証されるものではありません。
※会社法に関する詳しい法律相談、定款変更、登記手続等については、(顧問)弁護士、司法書士等の専門家にご相談ください。
藏田 尚哉(代表取締役社長)
佐藤 光(税理士)